「どう?気分が明るくなった?」なんて言われたら「うん」というとでも思ってんの。
半年前、頑張りたくても頑張れなくて、そんな自分が嫌で、この気持ちをどうすることもできなくて壊れそうだったころの話。
私は大学三年で、部活では幹部を任される年だった。
しかし、今年は思うような活動ができず、自分たちで工夫して道を切り開いていく必要に迫られることが多かった。
その状況下において、頑張らなければならない、という思いを持ちつつも、例年通りにできない悔しさや、既に諦めなければならないと分かっていたことが、私を苦しめていた。
頑張りたい。どうしても頑張りたい。なのになんで心が言うことを聞かないんだろう…。苦しくて、苦しくて。でも、こういった時に相談をするのが彼氏なのかもしれない、と思いの丈を少しずつ、少しづつ言葉にして伝えてみたことがある。
話しているうちに涙が零れてきた。
話を聞いていた彼は驚いた様子で話を聞き、ワタワタとしていた。
怖々と抱き寄せてひとこと言った。
「頑張っているからね、何とかなるよ」
今までの話を聞いていたののか、と耳を疑った。
私は頑張れなていないということを訴えていたのに。
本当に冗談抜きで私は頑張ることができていなくて、本当に何もできていなくて、だから現状は何とかなっていないと言っているのに。
彼は私をなだめるつもりで発した言葉なのかもしれないが、その言葉は運悪く私の逆鱗に触れた。涙はすっと影を潜め、火照っていた頭は一気に氷点下まで冷やされた。
急に泣き止んだ私に、彼は少しほっとしたのだろうか、
「どう?気分が明るくなった?」
そう能天気に聞いてくる。
「うん、もういい」
そう返した私に
「そっか、良かった!」
と、安心した顔で帰してきた。
もういいんだよ、あなたに話して理解してもらおうと期待した私が悪かったみたい。
上の空はどこの空?
二人で繁華街を歩いていた時の事。
手を繋いで信号待ちをしていた私たち。会っていなかったのはたったの一週間だったけど、私としては話したい事がたくさんあった。たくさんあったからいろいろと話をしていた。
別に相手がそこまで話をしてくれなくったっていい。話す量が、私の方が圧倒的に多くたっていい。「はいはい」、と軽く受け流されたって良い。
でも、彼の目はいつも私ではないどこかに向いている。
私の話が面白くなかったのかな、もしかしたら今は外を歩いているから、ゆっくり話をする感じじゃないのかな、
色々考えて話をするのはやめてしまった。
そのままいい感じのカフェに入って、注文をした。
ケーキとコーヒーが運ばれてくるまでの待ち時間。今なら話しても落ち着いて聞いてくれるかな。
でも、彼の目は相変わらずの上の空。話に対して相槌はうってくれるけど、その相槌も、何コンマか遅れていることを感じ取ってしまう。
信号待ちの時の方がまだよかった。今は彼が目の前にいるから、上の空だということをまざまざと見せつけられている気分になる。
がんばって笑ってみるけど、結構限界。
彼が見ている空はどこなのかな、私は雲をつかむことさえできていない。
一人でゴールテープを切るあなたを、私は近くて遠い場所で見つめている
私にとって、今回の彼氏は「初めて」の相手だった。
大学生になってからというもの、好きだった人はいても付き合った人がいなかった私にとっては、彼氏との夜が初めてで、それがすべてだった。どれだけネットや周りの人の話を聞いていたとしても、二人の夜になってしまえば、そんな知識は半分くらいしか思い出せなくなってしまう。
私が初めてだということを聞いた彼はとても優しかったと思う。初回は無理しなくていいよ、と言ってくれて最初の方を少しやっただけでそれ以上を求めてくることはなかった。
そんなこんなをして付き合って3ヶ月ほどたったころ、私も人並みに慣れてきたころから、私はあることが気になっていた。
いや、たぶん2か月を過ぎたころから気になってはいたんだと思う。でも「これは彼の優しさなのかもしれない」と思い込もうとしていただけで本当は心の隅では気になってたんだ。
彼が私の中で果てたことがないのだ。
15分くらいすると、さっとやめて、私を隣に置いて一人でゴールテープを切りにかかる。
私はその姿を隣で見ているだけなのだ。
これは私側に問題があるのだろうか。私は初めてだったし、自信なんてみじんもない。世の中の女の子たちがどうやっているのかなんても分からないし。
そう思って彼にこぼしたこともある。
「私、下手だよね、ごめん。」
でも彼は何のことを言われているか分からないという顔で
「なんでそんなこと言うの。全然下手じゃないし。」
というのだ。
その時、私は自分が下手なんじゃないかと思う理由を言えなかった。
「二人でしているのに、あなたが一人で、自分の手で、私の隣で果てていくからです」、
なんて言葉はすごくハードルが高かった。
私は結局何も言えなかった。
勇気を出して言うことができなかった私に言う権利なんてないのかもしれないけど、ここでは少し言わせてくれないかな。
二人でいるのに、一人でゴールテープを切るあなたを、私は一番近くて遠い場所で見つめているの。その時、私はどんな気持ちでいればいいのかな。
あなたが最後にスッキリした顔で眠たくなっていても、私は空っぽの心を抱えて一人で横たわっているんだ。
私の空っぽの心は何で満たせばいいの?
要求多すぎない?ってさ、この言葉の本質が分からないの?
コレサワ、というアーティストがいる。
声がかわいくて、曲調はポップでかわいらしい。でも、私が惹かれるのは歌詞。
女の子のかわいいところも、揺れるところも、ずるいところも描いているのがとても信用度が高い。
「あたしを彼女にしたいなら」という曲がある。
あたしを彼女にしたいなら、クリアしてほしい要求を歌っている。
読み取れる限りをあげるとこんな感じ。
・「永遠」なんて言わない
・夢ばかり見せないこと
・身長は152㎝以上
・尖った靴はダメ
・付き合う前にキス、アレ、夢を語ることを済ませる
・スッピンも愛する
・あたしの音楽に口を挟まない
・ダサいこと言わない(生まれ変わっても一緒とか、この手は離さないとか)
・割り勘ばかりは嫌
・ちゃんと叱ったりもする
まあ、こうやって列挙すると多く感じられる。
実は彼氏は私の影響でコレサワをよく聞くようになっていて、この曲も一緒に効いていたのだが、発したひとことはこうだった。
「結構要求多すぎない?」
やっぱり、そう思っちゃうんだ。
私はこの曲の一番大切な部分は曲のラストのこの言葉だと思っている。
こんな私でもいいなら 今日からよろしくね
いつか終わりが来ることを心得て愛してね
これだけたくさんの要求をする本当の理由は、付き合うということに保険をかけたいということなのだと思う。
簡単に付き合って、簡単に飽きられて、簡単に捨てられることがないように保険をかけているのだと思う。
この主人公は、自信たっぷりの高飛車な女の子じゃなくて、
自信がなくて、すごく用心深くて傷つきやすい女の子なんじゃないかと。
「そんなにたくさんお願いしなくても大丈夫。ちゃんと好きだからね。」
その言葉がホントは欲しかったんじゃないかと思う。
「要求多すぎない?」
なんてさ、
その要求で必死に自分を守っている女の子がいることを、もっと見てよ。
裸で戦いに出た女の子がいくら傷ついても、きっと君は気が付かないんだろうね。
「なんとなく」選ばれたのかな、私
私たちの出会いはマッチングアプリだ。
彼から「いいね!」が届いて、私は彼のプロフィールをじっくり読んだ上で、「ありがとう!」を返して会話をするようになった。
何日がやりとりが続いた後にLINEを交換して、とまぁありきたりな流れをこなした。
そのあともそんなに特別なことはなく、LINE交換から3日くらいで「会ってみませんか」と誘われることとなった。
一回目に会って、昼間の公園で話をしている時、近くで遊んでいた子供が投げたボールが目の前を横切った。
私は何も思わなかったけど、彼はさっと立ち上がってボールを取りに行き、子供に手渡していた。
その姿がちょっといいな、と思って二回目に会う約束を承諾した。
二回目に会った時に告白されて、一週間悩んでOKした。
私から見た彼はそんな感じだ。
でも、彼が私を選んだ理由を聞いたことはなかった。
そんな日、
ふとした時に聞いてみたのだ、「なんで私が良いと思ったの」と。
それなりに期待してしまった。アプリ内にはもっとかわいい女の子もいただろうし、会ってみて違うなぁと思うことだってあるだろうに、私にあんなにも早く告白してきたのだ、何かあるかなぁって思ってしまっていた。
「うーん、なんとなく?」
浮ついていた気持ちは一気に力を失ってしまった。
所詮、そんなものなのだろうか。
じゃあ、あの時会っていたのが私じゃなくても良かったのかな、
「なんとなく」会ってみた相手が良さげだったから、「告白してみた」のかな、
じゃあ今、なんで私はあなたの隣にいるのかな。
私が私である必要はあったのかな。
その理由がこのままずっと分からなかったら、私は「なんとなく」あなたの隣からいなくなることだってあるかもしれない。
「愛してるよ」「私も」っていうのは、夢の国でのやりとりだから
彼に対するモヤモヤした気持ちが常にある状態である。
そんな日、ふとLINEを開くと彼からの一件の通知
「愛してるよ」
何事だろう。
考えられるのは、何か私に対して思いを抱くような出来事が起きたか、何かしらの理由で寂しくなったか、酔っているか。
「いきなりどうしたの。酔ってるの?」
わたしが選んだ言葉に対して、返信はすぐに帰ってきた。
「いや、さっきテレビで芸人が妻に「愛してる」ってLINEしたら「私も」って返してくれるまでLINE送り続ける企画やってたから、真似してみた(笑)」
だそうだ。
おまけに
「どう?愛してるって言われて嬉しい?」
と、余計なひとことまで。
そんなテンションで言われた「愛してるよ」なんて嬉しくもなんともない。
いつでも「愛してるよ」って言われて嬉しくなって、秒で「私も」なんて返すやりとりがあるのは夢の国だけだから。
何を勘違いしているのだろう。
そうして「愛してるよ」という言葉を使うことで言葉の価値を下げていることに気が付かないのだろうか。
もっと大事な時に、私だけに向けて心を込めてその言葉を贈ってほしいのに。「愛してる」は私にとっては重みのある言葉なのだ。誰にだって言えるわけじゃないし、言う場面はすごく気を遣うし覚悟もいるのに。愛してるという言葉にはそれなりの責任があるとも思っている。
だからこそ、わたしって、そんなに適当に言葉を投げかけられる存在なのだろうかと思ってしまう。
きっと彼は深い考えなしにこの言葉を発しているのだろうし、私にこんな受け取られ方をするなんて露ほどにも思っていないのだろう。
その無神経さ、無関心さ、無頓着さが、私にとってはひどく痛いものとなっているのに。
そんな私は一度も彼に対して「愛してるよ」を言えたことがない。
幸せ太りなんて言葉はさ、幻想なんだってば
彼と付き合うようになって、自分の容姿に対してさらに関心が高まるようになった。
メイクや服装に対してだけでなく、自身の体についても。
結局のところ、メイクや化粧でごまかせないような部分まで見せる間柄になったのだ。自分のポテンシャルを上げておきたいと思うようになった。
とはいうものの、おいしいものは食べてしまうし、嫌なことがあったりストレスフルな状況に陥ると甘いものに手が伸びてしまう。
筋トレやダイエットダンスをかじりながらも、なかなか体重の減少に結び付けることができないでいた。むしろ、少し増えた体重を何とかしようともがいているというような状況。
そんな、日。
いつものように彼の部屋にお邪魔し、甘えられていると、ふと彼が言ったのだ。
「なんかさ、付き合いだしてからちょっと太った?」
私は何も言えなかった。自分でも、太ったという自覚はあったから何も言い訳をすることなんてできないと感じていたから。
えへへ、なんて笑いながら
「そうなの、太った~~~~~~」
なんて言いながら手元にあった服たちをかき集めて素早く着た。
「あ、幸せ太りってことかな?」
なんて彼は言ってまたするりと服の中に手を伸ばして脱がし始めてしまった。
自分の家に帰る途中、コンビニによってクリームがこってりしてそうなスイーツを買った。ちょっぴり暗い部屋で食べた。何も考えていなかった。
「女心が分からない彼氏あるある」というサイトをなんとなく見ていた。
「あれ、太った?」と言う、だってさ。
テンプレートそのまんまで笑えてくる。
「地雷を踏んだことに気が付かないなんて、ホントにデリカシーのない彼氏ですよね。」だって。
やっぱりそうなのか。
友だちに相談しても同じような答えだった。
「太った、って言っちゃうとさ、ホントに太ってかわいくなくなってきちゃうよ、彼女がそんなになってもいいの?って言ってやんな。」
そんな清々しいコメントまで添えてくれた。
確かにそうだ。
加えて、私は自分の体質についても思い出してしまった。
私が太ってしまう時はどちらかというとストレスがかかる時だってこと。必要以上にモノを食べてしまって、動かなくなって、太る。
だから、私にとって幸せ太りなんて幻想なんだ。
じゃぁ最近、ちょっと太ったのはなんでなんだろうね。