安心して寝れるってさ、全然うれしくないんだけど。
寝るのが異常に速いのは前から気がついてはいたのだけど、こんなにも寝るものだとは思っていなかった。
ふらりと立ち寄ったレストランは、森の中のログハウスといった雰囲気のお店だった。ゆったりとした時間が流れる雰囲気は良いのだけど、それがスタッフさんの雰囲気にもつながっているのか、料理の提供もゆっくりめなのが少し気になる。スタッフさんがすごくすごく優しいのは、口調や物腰からも伝わるんだけど。
私が注文したのはチーズパイのセットで、彼が注文したのはピザ。どちらも焼き時間がかかりますとあり、チーズパイは20分、ピザは15分ほど、となっていた。まあ5分くらいの差ならいいか、と思ったし、私はそのチーズパイにすごく惹かれていたからあまり気にしていなかった。
ピザは15分くらいでやってきた。
「先、食べてていいよ」
そう言った私に
「わかった、ありがと」
と言って食べ始めた彼。
お好みでどうぞ、と置いてあったタバスコをばしばしかけて食べ始めた。
一応、こちらを気にしてかゆっくりめに食べ進めるのだけど、10分くらいたっても私のチーズパイは運ばれてこなくて、彼のピザは残り一切れになってしまった。
「チーズパイ遅いね。ごめん、俺もう食べ終わっちゃうわ」
そういう彼に
「大丈夫、気長に待つから」
そう答えたころ、ようやく私のチーズパイが届いた。
パリパリの皮の中にとろっとしたチーズ。セットにしたオリジナルドリンクもおいしい。
「どう?おいしい?」
問いかけた声に笑顔で頷いた。彼の最後のピザはしっかりと彼のお腹に収まったようだった。
このドリンク、おいしいから少し飲んでみる?と言おうと思って、ふと彼の方に視線を投げた。
びっくりした。寝ている。
「え、ちょっと、」
私が声をかけると、
「もう食べちゃってたしさ、眠いなーって。」
と、まどろんだ目で答えられた。
私は無言でチーズパイをドリンクで流し込んで食べ進めた。味なんて、半分くらい分からなかった。ただひたすらに、お腹の中に収めた。
最後のひとくちが終わってもまだ、寝てる。
「ねぇ、ちょっと、」
つつくと、
「あ、食べた?そろそろ行こうか。」
と、さっぱりした顔で言われた。
店を出て、手を繋ごうとされたけど、ピッと振り払ったら、
「え、寝てたから怒っちゃった?」
と聞いてくる。
「まあね。そりゃいい気しないよ」
そう答えると、
「いやさ、隣にいると安心して寝れちゃうんだよねぇ。寝られてほったらかしで嫌だった?」
とほくほくした表情を見せる。
「別に。そういう人なんだなーって思っただけ。」
それしか言ってやらなかった。
「そうか~」
なんてのんきに言っていたけど、その言葉はあなたを半分見捨てているんだってことに気が付かないのかなぁ。
安心して寝れるって、この状況で言われても全然うれしくない。家とか、ベッドならわかる。でもここはお店だし、私はまだご飯を食べてるし、その時間を共にすることが楽しみだったのに。安心して寝るシーンじゃないだろうが。
かくいう私は彼の隣で熟睡できた試しは一度もない。